脳外傷による高次脳機能障害でお悩みの方へ

脳外傷による高次脳機能障害

 外傷等により,脳が損傷を受け、記憶・注意・行動・言語・感情などの働きに障害が発生している状態を高次脳機能障害といいます。

 脳外傷による高次脳機能障害は,交通事故などにより脳に衝撃が加わることで脳の器質的損傷して発生する障害です。

 同様の症状があっても脳損傷が見られない場合には,非器質性精神障害としての後遺障害は疑われますが,高次脳機能障害には当たりません。

 そこで,高次脳機能障害として後遺障害認定されるためには,脳損傷の有無が重要となります。

 器質的脳損傷と言えるかの判断には,画像所見上の異常の有無や程度と,受傷後の意識障害の有無や程度が重要となります。

 また,交通事故による外傷が原因で高次脳機能障害が発生したことが必要ですので,事故との因果関係が必要となります。

 高次脳機能障害では,典型的には,事故直後から重い精神症状等が発生し,その後に軽快したにもかかわらず精神症状が残存することになりますので,一旦軽快した症状が重篤化する場合には内因性であることが疑われます。

 また,事故後特に異常な精神状態が認められなかったにもかかわらず,ある程度の期間が経過してから急に精神症状が発生した場合には,事故との因果関係が疑われます。

 このような場合には,交通事故により高次脳機能障害が発生したと認められるためには,医学的な証拠や資料,説明等が必要となります。

高次脳機能障害として慎重な判断が必要な場合

 自賠責保険では,高次脳機能障害が疑われる事案では,慎重な損害調査の対象とすることとされています。

 具体的には以下の場合です。

 ①初診時に頭部外傷の診断があり,経過の診断書において,高次脳機能障害,脳挫傷(後遺症),びまん性軸索損傷,びまん性脳損傷,急性硬膜外血腫,急性硬膜下血腫等の診断がなされている症例

 ②初診時に頭部外傷の診断があり,経過の診断書において,認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状あるいは失調性歩行,痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の傷害がが認められる症例(具体的には,知能低下,思考・判断能力低下,記銘障害,見当識障害,注意力低下,衝動性,易怒性,自己中心性)

 ③経過診断書において,初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例

 ⓸初診時に頭部外傷の診断があり,初診病院の経過の診断書において,当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁,GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上,もしくは健忘あるい軽度意識障害(JCSが1桁,GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例

 ⑤その他,脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

 このような症例に当てはまる場合には,高次脳機能障害の可能性がありますので,被害者や被害者の家族の方は,高次脳機能障害でないか疑ってみてください。

高次脳機能障害の方によく起こる問題

 交通事故で高次脳機能障害が発生するような場合には,脳に大きな衝撃を受けていますので,意識がないまま地域の救急病院に搬送されて検査や手術を受けることが大半です。自分では病院を選べるような状態ではありませんし,まずは急いで身体の外傷の治療をされます。

 救急搬送された先が高次脳機能障害について十分な知識や理解のない医師や医療機関だった場合には、外傷性のケガの治療に終始し,高次脳機能障害については症状を見逃されたまま放置され、適切な診断を受けることができない可能性もあります。

 高次脳機能障害について見逃されてしまうと,身体の治療だけがされて,高次脳機能障害についての治療もリハビリも受けられないままになってしまいます。

 被害者本人や家族も,命が助かったことだけで安心してケガを治すことだけに集中してしまい,高次脳機能障害の症状については見落しがちです。

 被害者が怒りやすくなるなど被害者の性格や情動が変化したり,認知能力や集中力が低下したりしていたとしても,事故直後はケガの痛み等で身体が思うように動かなかったりして通常の状態でないため,高次脳機能障害の症状であることを気づけないことがあります。

 特に被害者本人が高次脳機能障害の症状を自覚することは非常に困難ですので,医師や家族など周りの方が気づかないと見落とされることがあるのです。

 また,医師から高次脳機能障害の診断を受けたとしても,医師は患者の命を救うため,身体を元通りにするために一生懸命治療をしてくれますが,後遺障害の立証のために治療をしているわけではありません。

 高次脳機能障害を疑う場合には,時期に応じて必要な検査をしたり,記録を保存したりすることが必要がある場合もありますが,医師に任せたままにしてしまうと,後遺障害立証のための資料を得る機会を失うことがあります。

 後遺障害の立証のためには,治療の必要とは別の観点から,必要な時期に証拠として必要な検査をお願いしたり,証拠として必要となる記録を残したり,救急搬送時の記録などが残っているうちに取り寄せて保存することが必要な場合があります。

 交通事故で高次脳機能障害が疑われる場合には,弁護士に相談することをお勧めします。

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